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【作詞tips】構図を考える②テーマとモチーフ

前回は、作詞に着手するための土台として、曲調から想起させられる感情を書き出して繋げることで世界観(小説もどき)を作る、というやり方をご紹介しました。


でも、実際に作詞の依頼を受けるときゼロから全部世界観をお任せされることは極めて少ないです。大体は「片想いの女の子の心境を言葉にして欲しい」「冬をテーマにつくって欲しい」など、大まかな主題があらかじめ決まってる事が多いです。


今回はそんな、「テーマにそって歌詞を書くときの考え方」をご紹介します。


モチーフと


 「失恋がテーマの曲」と聴いて、大半の人は何かしらの楽曲を思いつくと思います。それぞれが思いつく楽曲は十人十色でしょう。でも「失恋したときの喪失感と残り続ける執着をレモンの淡い香りで表現している曲」と聞いたら作品数はかなりしぼられてくるんじゃないかと思います。


あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ そのすべてを愛してた あなたとともに 胸に残り離れない苦いレモンの匂い 雨が降り止むまでは帰れない 今でもあなたはわたしの光

lemon/米津玄師


 つまり作品の個性を作っているのは、「失恋」というテーマではなく「その失恋をどのような道のりで表現したか」なのです。僕はこの道のりのことを「モチーフ」と呼んでいます。


 この道のりの共感性が高く、また独創的であるほど「いい歌詞」だと思われる傾向が強いように僕は思います。上記の曲もそうですが、そのままタイトルに直結するのも王道ですよね。このモチーフがサビとか印象的なメロディーのところで現れると、フワフワとした状況がキュッと一つに収斂していき、明快になるカタルシスを得られます。まさしく梶井基次郎の小説にでてくる「檸檬」のように。


見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。私は埃ほこりっぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。私はしばらくそれを眺めていた。

檸檬/梶井基次郎


モチーフを考えるアプローチ


 モチーフが大事なのはわかった!じゃあどうやってモチーフって作るの?という一番大事なところをこれから書かなくちゃいけないのですが、正直それがうまく出来たら天才作詞家なのですと思うくらい実は僕は毎回苦労してます。


 ほんとは書き始める前にモチーフがバシッと決まってることがベストなんでしょうね。秋元康さんの作られる歌詞は流行語やパワーワードというモチーフから歌詞全体を逆算されて作ってるのではないかなと思う曲が多いです。


地球と太陽みたいに 光と影が生まれて 君を探してばかり 距離は縮まらない (HEY! HEY! HEY!) 重力 引力 惹かれて 1から10まで君次第 存在するだけで 影響 与えてる インフルエンサー

インフルエンサー/乃木坂46


なので過去の経験からどうやってモチーフを、決めてきたのかの例を並べてみたいと思います


似た構造のものを探す

 書きたいシチュエーションを、別の構造に置き換えるというやり方です。上記のインフルエンサーの歌詞が近しいかな、と思うのですが、あの歌詞は「片想いの相手の一挙一動に情緒が振り回されている」という相手と自分の関係性を、「憧れのインフルエンサーがSNSで取り上げた商品やブランドに購買意欲を振り回される大衆」という構図をオーバーラップさせているわけですね。例え、とも言うのかもしれません。 


瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

百人一首 崇徳院


こちらは短歌で、「勢いがありすぎて岩によってまっぷたつになった川の水」を「別れた二人の運命、そしてまたいつか会う意思」のモチーフにしているのですが、モチーフを先に提示して、テーマが後でわかる、というやり方もカタルシスですよね。小学生のときに一目惚れした句でした。


 上の例でわかる通りこの作り方のいいところは、モチーフを用いる(意図せず韻を踏んでしまった……)ことによって、歌詞のなかで直接的な表現を描かずともたくさんの情報を含ませることが出来るところです。崇徳院さんのことをなにも知らなくても、川の流れから連想する轟音とか、勢いの強さみたいなものから、いかに壮大な人生だったか想像できますよね。

 ちなみに僕は童話や神話を、よくこの手法でモチーフにすることが多いです。知っている人の範囲が広いだろう方が効果的かな、と思います。


テーマの構造自体を物語に捏造する


これも、よく使う技法です。そのまま歌詞にするのが恥ずかしかったり世間的にそのままのテーマを扱うのが難しかったりと、主題そのものを煙に巻きたいときに使います。


 まずテーマ自体の構造を架空の物語に置き換えてしまうのです。例えば失恋したことを書きたい、でも失恋したというのを直接書くのは気まずい。

 そういうとき、自分がその心境を抱いているときの五感を別の言葉とかシチュエーションに置き換えて表現するんです。失恋の「喪失感」を「空っぽのだだっ広い部屋にたった一人で佇んでいる」に置き換えたり、「ないものに期待をしてしまう空しさ」を、長い糸電話から聞こえる音を便りに赤い糸をたぐったら空っぽの糸電話が落ちていてその周りの雪吹雪の音が聞こえていただけだった、というシチュエーションにしたりという具合です。物語自体がモチーフになっています。

 読んだ人に謎めいた印象を与えるので、わからないもの、複雑なものを好む人に刺さる作品になりがちです。(僕は好きなんですが。)あまりにも謎めいているとなにも伝わらないのが難しいところです。なので、状況はわからずとも感情の中身はしっかりわかるような仕掛けが必要だったりもします。


 コツは、なにかの感情を表現したいとき、その感情を抱いている自分の体に起こっていること、その身体感覚のあり方をにた別の環境に置き換えてみることかと思います。例えば不安を覚えているとき、知らず奥歯を噛みしめ、肩をこわばらせて息を止めていることが僕は良くあるんですが、それはすごく寒くて風が吹き付ける場所で身を縮めている感覚に似ているなぁと思ったりします。(だからちょっぴり冬は苦手です……)そんな風に、感情を環境に変換していくのです。


舞台設定から情景の一部を拾う


 テーマに沿った具体的な物語や環境を先に決め、その舞台環境から印象的なモチーフを探していくやり方です。「失恋」ならば、別れ話がどこの場所で行われていたのか、どちらが切り出したのか、別れる理由はなんだったのか、時間帯はいつ頃だったのか、その時に主人公が何を思っていたかみたいな事をひたすら考えていくわけです。

 今やってみましょう。付き合って三年目ぐらいのカップル。大学時代に付き合い始めた。就職をきっかけに、なんだか噛み合わなくなる。男の子の方が、恋愛より仕事に熱をいれるようになってしまったからだ。やりたい仕事につけなくて、その時に胸に沸いた焦燥感を払拭したくてのめり込んでいる。会社は明確に目標を設定してくれているから日々達成感がある。ゲームにハマる感覚。ハマりやすいタイプかもしれない。

 一方女の子は、学生時代のその人が忘れられない。きっと学生時代の男の子は、かなり女の子に一筋だった。男の子から告白されたときの情景が忘れられない。両片想いのあの甘い空気感。寒い風の匂いが少ししょっばくてキリキリする夜。吐く息の白さが、パレードの煌びやかな照明で染められる。


 そうだ、パレードをモチーフにしてはどうだろう。二人はもう一回パレードを観に行くのだ。あの時は、パレードを二人で観ていた。そっと繋がれた手の暖かさをパレードの音楽が支えてくれていた。今はどうだろう。横顔を見つめても何もわからないし、しゃべる声もパレードの音にかき消されて聞こえない。


 みたいな感じで、モチーフを探していきます。はぁ、書いてると辛くなってきました。念のためこれはフィクションです。


でもほとんどなりゆきなんです


 ほんとに申し訳ない。ここまでかっこよく書いてきましたがほんとはなりゆきで後付けでモチーフを決めることが多いかも知れないです。僕は計算したり計画通りに物事を進めるのが苦手でして、歌詞も冒頭から順番に決めることが多いんですよね。舞台設定から決めていくでやってるような行程を、直接歌詞にハメながらサビ手前とか、サビまで進めて、ここぞってタイミングに来てはじめて考えるんです、「ここまで書いてきたことをまとめるならばなんだろう?」と。なんかそろそろ結論めいた事言わないと読んで来た人が気持ち悪い思いをするだろうな、と。

 場合によっては全部かいてしまってからタイトルつける段階で頭がよじれるほど悩むことも結構あります。この場合はタイトルがモチーフになっていて、歌詞がその答え合わせ、のような構図になりますね。それはそれで完成したら含みがあって面白味のある作品になるのですが、肝心要を最後まで後回しにしているので精神衛生上は良くないです。


あとがき

 ということで今回は、テーマを表現するためのモチーフについて書いてきました。

僕が例に上げた書き方以外にも、きっといろんな作り方があるんだろうなと思いますし、それが個性になっていくんだろうなと思います。是非今度歌を聴いてみるとき、「この楽曲のテーマはなんだろう?」「そしてそれをなすためにモチーフとしてなにを使っているんだろう?」みたいなことを、考えてみてください。なにかいつもと違う見え方があったら、嬉しいです。

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